医療技術研修
「臨床検査技術コース」-新興・再興感染症にも対応できる臨床微生物学-

三澤 成毅 JIMTEFコースリーダー
順天堂大学医療科学部臨床検査学科 先任准教授
開発途上国における感染症対策のための
臨床検査技術の発展に取り組んで35年
- Ⅰ.はじめに
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開発途上国において、感染症対策は今なお最重要課題です。本財団では、設立当初から感染症の診断に必須な臨床検査技術である微生物学的検査を主要な研修事業として位置づけ、1988年から独立行政法人 国際協力機構(JICA)の委託を受け今日まで継続しています。
「臨床検査技術コース」-新興・再興感染症にも対応できる臨床微生物学-は、JICA東京を拠点し都内および近県の医療機関、検査機関、研究期間および企業で研修します。研修内容は、①標準的かつエビデンスに基づいた微生物学的検査の知識と技術、②ISO 15189に準拠した検査管理、および③医師や他の検査機関との連携構築の手法を学ぶことができる特色あるものです。研修の具体的な内容は、検査技術の進歩や感染症の変化に呼応すべく毎年見直し、さらに現地のニーズに合うように計画しています。近年では、抗菌薬耐性の増加やウイルス感染症の流行に対し、先進的な分子診断技術も取り入れています。
研修実績は88カ国から合計371名の微生物学的検査の実務者が本コースを修了しており、本財団全体の臨床検査技術分野の研修修了生は89カ国471名です。
帰国研修員は所属機関における微生物学的検査部門の責任者として、日本で学んだ知識と技術を自国で移転し、検査の改善、発展を促進するリーダーとして活躍しています。
感染症との戦いは未来においても無くなりません。国際医療技術財団は本研修を通じて、開発途上国における医療の向上に貢献すべく努力を続けます。
修了研修員内訳
アジア :19カ国 94名
アフリカ:29カ国 150名
中南米 :19カ国 62名
大洋州 :11カ国 45名
中 東 : 6カ国 16名
欧 州 : 4カ国 4名
合 計 :88カ国 371名 - Ⅱ.研修コースのねらい
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本研修コースは、感染症の適切な診断や治療にとって不可欠な臨床検査である微生物検査の技術と知識を習得するものです。臨床検査なくして現代医療が成り立たないことは言うまでもなく、感染症診療においては良質な微生物検査情報の提供がきわめて重要です。そこで、新しい研修コースでは、良質かつ一定水準の検査に必要な標準的な検査法、検査の品質管理、院内感染症対策における微生物検査室の役割などの検査室の管理、運営をねらいと致しました。従って、研修員はその国の基幹となる医療機関または検査施設において実務を担当する責任者とし、帰国後の技術移転が円滑に行える人材を選定しています。
2021年度は、ガボン、イラン、ケニア、ナイジェリア、サモア、スリランカ、東ティモールより11名の研修員を受け入れました。
2022年度は、ケニア、ザンビア、シエラレオネ、ナイジェリア、パナマ、東ティモールより8名の研修生を受け入れました。
2023年度は、インドネシア、チュニジア、ケニア、ザンビア、ナイジェリア、ギニア、マダガスカルより7名の研修生を受け入れました。
2024年度は、ウガンダ、ギニア、サモア、ザンビア、シエラレオネ、ナイジェリア、パプアニューギニアより7名の研修生を受け入れました。
2025年度は、ギニア、ケニア、サモア、ザンビア、シエラレオネ、ナイジェリア、バヌアツ、パプアニューギニア、ブータンより9名の研修生を受け入れます。 - Ⅲ.参加資格要件
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国または地方の基幹医療機関もしくは診断部門と連携できる微生物検査に勤務する者で、微生物検査業務に従事する技師、医師、薬剤師もしくは看護師で、研修で習得した技術及び知識の普及を実行可能な責任ある立場にある者
研修に必要な英語能力を有する者
マイクロソフト・オフィスソフトウェアの使用を含む基礎的なPCスキルを有する者
心身ともに健康で支障なく研修生活を送ることができる者
軍籍にない者
- Ⅳ.研修コースの内容
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研修内容を表に示しました。コースは講義と実習(微生物学的検査技術実習・病院実習)の大きく2つの柱で構成しています。実習では、微生物学的検査技術実習において微生物学的検査の基本技術、Gram染色,生化学的性状検査、薬剤感受性検査を実習します。病院実習では講義と集合実習で得た知識を体験、確認するとともに検査室スタッフのトレーニング、感染症対策に必要な微生物検査情報の収集と提供について実習します。また、遺伝子検査や臨床検査室の国際標準規格であるISO 15189による標準操作手順書の作成法及び精度管理を演習します。JICAが提供するプログラムとして研修員が行っている保健医療分野の協力、保健医療システムにおける臨床検査の役割の講義があります。
講義 微生物検査におけるバイオセーフティおよびバイオセキュリティ、微生物検査室における器材の配置と使用上の注意点、主要な感染症の病原体,検査の選択と解釈、感染症の世界的動向(抗菌薬耐性,新型コロナウイルス感染症)、微生物学的検査の管理(検査前プロセス,検査後プロセス),医師や他機関との関係構築、感染症対策(院内感染を含む)における微生物検査室の役割,初期治療のための微生物学的検査(感染症診断のための患者検体の塗抹検査)、婦人生殖器の塗抹検査、検体別検査法:血液,髄液、検体別検査法:呼吸器検体、検体別検査法:糞便、検体別検査法:尿、薬剤耐性菌の検査法,薬剤感受性検査法、薬剤耐性菌の検査法,薬剤感受性検査法、SARS-CoV-2の遺伝子検査試薬・機器説明、SARS-CoV-2の抗原および抗体検査試薬・機器説明、嫌気性菌検査法、疫学統計の基礎、標準操作手順書(SOP)作成、微生物学的検査の内部精度管理、スタッフの教育 微生物学的検査技術実習 微生物学的検査の基本技術,Gram染色,生化学的性状検査,薬剤感受性検査 病院実習 日本の微生物学的検査の実情把握および研修で修得した内容の確認 洗浄・滅菌実習 サクラ精機株式会社 教育センター 演習 微生物学的検査の管理(検査前プロセス,検査後プロセス),医師や他機関との関係構築、疫学統計の基礎、初期治療のための微生物学的検査(感染症診断のための患者検体の塗抹検査)、婦人生殖器の塗抹検査、微生物学的検査の内部精度管理、スタッフの教育、標準操作手順書(SOP)作成 見学研修 シスメックス株式会社
ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社
ビオメリュー・ジャパン株式会社
株式会社マイクロスカイラボ
日本ベクトン・ディッキンソン株式会社発表会・報告会 ジョブレポート,研修報告会 その他 JIMTEFオリエンテーション,健康診断,JICA提供の保健医療関連プログラム
評価会,修了式
大学医学部附属病院検査部での研修風景
オンライン・フォローアップ研修
2019年度研修日程(PDF) 2020年度研修日程(PDF) 2021年度研修日程(PDF)
2022年度研修日程(PDF) 2023年度研修日程(PDF) 2024年度研修日程(PDF)本邦実習受け入れ機関
- 国立国際医療研究センター病院
- 国立病院機構 東京医療センター
- 済生会横浜市東部病院
- 埼玉県済生会川口総合病院
- サクラ精機株式会社
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院
- 東京科学大学病院
- 東京大学医学部附属病院
- 東京都済生会中央病院
- 日本医科大学多摩永山病院
- 日本大学医学部附属板橋病院
- 株式会社マイクロスカイラボ
(50音順)
- Ⅴ.むすび
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感染症対策は開発途上国のみならず世界共通の課題となっており、2016年5月開催のG7 伊勢志摩サミットにおいて主要議題として取り上げられました。
さらに昨今では、世界中へ蔓延している新型コロナウイルスによる伝染病の感染制御が地球規模の大問題になっています。
これらの課題解決を視野にこれまでの研修内容をさらに改善し、PCR検査法、遺伝子検査法、抗体検査法など一層充実した研修コースを実施しています。