活動内容

柔道整復医療の国際貢献&海外展開 2023年5月1日スタート in ベトナム

運動器疾患の治療を担う柔道整復術の普及
手術をしない治療技術で保健サービスを改善

はじめに

ベトナムは長年にわたる苦難の歴史を乗り越え、国際社会において国連、ASEAN(東南アジア諸国連合)、APEC(アジア太平洋経済協力)、WTO(世界貿易機関)に加盟し、現在では近代国家として力強く発展しており、2017年11月には、APEC議長国としてリーダーシップを発揮しました。それに先立ち、2017年春、日本国天皇皇后両陛下は国賓として初めてベトナムをご訪問され、ベトナム国民から万全の歓迎を受けられました。

日本は1992年以来、政府開発援助(ODA) を再開して25年が経ちましたが、今やベトナムからみて日本は世界最大の援助国になっています。日本企業も3,000社以上がベトナムへ進出しています。

ベトナムが経済発展をこれからも持続するには健全な労働力の確保が不可欠であります。

そこで2015年10月27日、ベトナムの首都ハノイを訪問し、ベトナムの国民医療制度における運動器の外傷疾患の治療で実績のある柔道整復術の活用を議題に同国政府保健省レー・クアン・クオン副大臣と会談した際、同氏曰く「ベトナム国民の健康増進の一環として保健省も共催したいので柔道整復術に関するセミナーを是非当地で開催してほしい」との要請がありました。

2016年3月17日、ハノイで国際セミナーを開催致しました。

2019年10月、これまでの活動が評価され、ベトナムにおける柔道整復術の普及が政府開発援助事業として正式に採択されました。

2023年5月1日、日越外交関係樹立50周年に当たる記念すべき年に本事業がスタート致しました。

ベトナム国際セミナー

小西 恵一郎理事長による主催者開会挨拶

医療の向上に貢献する柔道整復術

主催 公益財団法人 国際医療技術財団
公益社団法人 日本柔道整復師会
公益財団法人 国際開発救援財団
ベトナム政府保健省
後援 日本国政府外務省
日時 2016年3月17日 8時30分〜17時30分
会場 首都ハノイ ソフィテルプラザホテル
参加者 195名(日本側22名、ベトナム側173名)

プログラム

8:30 開会式
[日本側主催者挨拶]
小西 恵一郎  公益財団法人 国際医療技術財団理事長
公益財団法人 国際開発救援財団理事
[ベトナム側主催者挨拶]
グエン・ティ・スウェン ベトナム政府保健省副大臣
[来賓挨拶]
深田 博史 在ベトナム日本国大使館特命全権大使
9:15 記念講演「ベトナムの伝統医療政策」
ファム・ヴー・カン ベトナム政府保健省伝統医学局長
10:00 基調講演「健康増進に貢献する柔道整復術」
萩原 正和 公益社団法人 日本柔道整復師会副会長
13:30 シンポジウム「ベトナム伝統医療の課題と展望」
座長 萩原 隆  公益社団法人 日本柔道整復師会国際部長
【1】 「柔道整復術の臨床」― デモンストレーション
三橋 裕之 公益社団法人 日本柔道整復師会保険部長
【2】 「ベトナム伝統医療の臨床」
チャン・クォック・ビン ベトナム伝統医学病院長
16:00 総括合同会議
小西 恵一郎 公益財団法人 国際医療技術財団理事長
松岡   保 公益社団法人 日本柔道整復師会副会長
ファム・ヴー・カン ベトナム政府保健省伝統医学局長
17:15 覚書(MOU)署名式
17:30 共同宣言採択

柔道整復術の活用メリット

2002年、WHO(世界保健機関)は、日本の伝統医療治療技術である柔道整復術を “柔道セラピー” として認知し、その適応症は、運動器の疾患・外傷─骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷─です。

対象患者は外傷患者、スポーツ選手、高齢者及び被災者等広範にわたっています。

治療体系は整復法・固定法・後療法から成り立っています。

整復法
骨折や脱臼のずれを元へ戻す徒手療法
固定法
包帯、テーピング、ギプス、副子
後療法
手技療法: 誘導マッサージ、軽擦法、圧迫法、揉捏法
運動療法: ストレッチ運動、関節可動・筋力回復訓練
物理療法: 電気、温熱、冷却、光線、超音波
  • 国際セミナー会場風景

  • デモンストレーション

柔道整復術は手術をしない、薬を使わない、レントゲンを撮らない、注射を打たないということで被爆や感染症の心配がなく、安全で安価な医療として日本国民から絶大なる支持と信頼を得ています。また無医村や過疎地での代替医療として応急処置が認められていることから災害医療にも有益であります。柔道整復師は、競技現場でスポーツトレーナーとして、また高齢者の介護予防や社会復帰のための機能訓練指導で活躍しています。

一方、ベトナムでも高齢化が猛スピードで進行しており、高齢化社会への対策が急務であり、また高度先進医療や健康志向の高まりを背景に医療費の増大や保健医療の質に関する地域間格差が広がっています。これらの問題に対応可能なシステム作りが大きな課題となっています。

このような中にあって患者の自然治癒力を最大限に生かした治療を本旨とする柔道整復術は、健康寿命を延ばし、農山漁村を活性化させ、ベトナムの経済産業の発展に資することが期待されています。

ベトナムの伝統医療

ベトナムの伝統医学は54の少数民族によって培われてきた民族医学であり、4000年以上の歴史の中で発展し、国民の多くが伝統医療による治療を受けています。

ベトナム政府は伝統医学を西洋医学同様、正規の医療政策に採用し、現行の保健医療システムの中で機能させています。政府保健省の中には、伝統医学局が設置されており、ベトナム最大の伝統医学病院(1957年設立、ベッド600床、外来患者1日数百人)をはじめ国立の研究機関や教育機関を多数管轄しています。

また教育年限・課程においても伝統医学医師は西洋医学医師と養成期間、権限もまったく同格であり、両者が共存する医療体系で先制的な医療サービスとその方法論を開発し、患者に提供しています。

国際セミナー主催者・後援者・日本側専門家

アンケート結果
ベトナム国民の健康増進に柔道整復術のどの技術分野が有効に活用できますか?
  1. 運動器の外傷手技治療

  2. 骨折・脱臼の整復法

  3. 外傷の運動療法

  4. 災害医療

  5. 薬剤を使用しない柔道整復術

  6. 運動器の機能回復訓練

  7. 介護予防

JIMTEFに希望や意見がありますか?
  1. 柔道整復術のトレーニングコースをベトナムの伝統医学病院で開催してほしい。

  2. ベトナムの医科大学で柔道整復術の授業を受けたい。

  3. 伝統医学と西洋医学の相乗効果を図るためベトナムで柔道整復術を適用・普及させたい。

  4. ベトナムで外傷手技治療に関する調査研究を実施してほしい。

  5. 柔道整復術の診断・治療・リハビリテーションに関する共同学術研究をしたい。

  6. スポーツである柔道と医療である柔道整復術との関連性について多くの情報を知りたい。

  7. 活法と殺法に関する具体的な療法をもっと知りたい。

  8. 日本の伝統文化に触れ、柔道整復師の治療現場を見学したい。

  9. 柔道整復術は日々の健康増進を助けているように感じられる。

  10. 柔道整復師の卒後プログラムで、日越伝統医学の交流と協力を促進したい。

覚書(MOU)の締結

WHOが提唱しているユニバーサル ヘルス カバレッジの理念のもと、ベトナムにおける伝統医療分野での相互協力パートナーシップに関して基本合意し、日本の医療技術サービスがベトナムの医療の向上及び人材開発に寄与することを目的としたMOUに、国際医療技術財団、日本柔道整復師会及びベトナム政府保健省伝統医学局の三者機関の代表がそれぞれ署名致しました。

具体的な協定事業としては、伝統医療分野における医療技術協力プロジェクトを企画立案し、実施していくことにしています。カウンターパートナーとしてベトナム国立伝統医学病院を選定しました。

MOU署名式 小西代表(左)・カン局長(右)

ベトナム国際セミナー共同宣言
  • 私たちはお互いの伝統医療を尊重します
  • 私たちは私たちの伝統医療がベトナムの国民医療制度へ統合されることを支援します
  • 私たちは伝統医療に関する医療技術協力プロジェクトを企画立案し双方が協力して実践します

首都ハノイ 2016年3月17日

成果と将来の展開

  1. ベトナムで最初の柔道整復術に関するセミナーとなり、同国政府保健省はこれを高く評価し、将来、柔道整復術を導入し、普及していきたい旨を表明しました。

  2. セミナー参加者からは柔道整復術の治療法に高い関心が示され、ベトナムメディアも全土へ報道し、大きな反響があり、ベトナム国民医療での実践に強い期待が寄せられました。

  3. 伝統医療分野の協定事業に関するMOU をベトナム政府保健省伝統医学局と締結しました。

  4. 国際セミナー主催者並びに参加者全会一致で共同宣言が採択されました。

  5. ODA(政府開発援助)等の活用を図り、柔道整復術に関する治療院を開設し、ベトナムの伝統医療のさらなる向上に貢献します。

小西代表と握手するスウェン政府保健省副大臣

視察団の招聘

2016年8月2日~5日

視察団 ベトナム政府保健省伝統医学局長、国立ホーチミン市伝統医学病院長
視察先 施術所、整形外科クリニック
目的 本邦現状認識と柔道整復術導入の課題

専門家の派遣

2017年 7月30日~8月2日

派遣者 萩原正和(日本柔道整復師会副会長)
田澤裕二(日本柔道整復師会渉外部専門家)
派遣先 国立ホーチミン市伝統医学病院
目的 ベトナム政府保健省伝統医学局提案※の確認作業
※提案内容
  • 本邦研修により柔道整復医療の有効性と安全性を確認
  • 日本の専門家の施術によるベトナム患者の治療成績に関する臨床データの作成
  • ベトナム政府保健省で治験結果報告書を審査→承認⇒開業

2022年度 政府開発援助(ODA)事業の実施決定

本財団の提案による「JICA草の根技術協力事業 ベトナム社会主義共和国 柔道整復術普及事業-手術を必要としない外傷治療技術(保存療法)で保健サービスを改善-」が正式に採択され、ODA(政府開発援助)事業の実施が決定致しました。
本事業を実施するための調査団をベトナムハノイ市及びホーチミン市へ派遣致しました。

協力団体は、公益社団法人 日本柔道整復師会です。

2023年度 柔道整復術普及事業の開始

ベトナム人伝統医学医師の本邦研修
研修スケジュール 2023年10月~2026年1月の間に随時実施
研修場所 柔道整復術施術所及び整形外科医療機関
研修生 国立ホーチミン市伝統医学病院所属伝統医学医師
ベトナム視察団本邦見学研修
研修スケジュール 2023年11月29日~12月3日
研修場所 栗原整形外科 市毛接骨院
第32回 日本柔道整復接骨医学会(名古屋市)
研修生 ベトナム政府保健省 伝統医学局長
ベトナム国立伝統医学病院 病院長
ベトナム国立伝統医療大学 副学長
専門家のベトナムへの派遣
派遣時期 2024年2月~2027年6月の間に随時派遣
派遣専門家 日本の柔道整復師
派遣先 国立ホーチミン市伝統医学病院、ロンアン省伝統医学病院、ロンアン省ベンルック郡総合病院、ロンアン省ベンルック郡内保健所、ホンバン国際大学(ホーチミン市)

ロンアン省ベンルック郡医療センターへ事業を説明する小西理事長

将来の展望

日本で完成した民族医学であり、科学的根拠に立脚した保存療法(非観血療法)の手技による柔道整復術を普及させることにより、当該外傷患者は保存療法で治療することができて今までのような後遺症や合併症の苦しみから解放されます。また、柔道整復術による治療は高価な医療機器を必要としないため、患者の医療費負担の軽減と国の医療費の低減に大きな正のインパクトを与えることが可能であります。

そして、医療保険の適用を視野にベトナム各地の医療機関で柔道整復術を活用した外傷治療が一般的となることが待ち望まれます。

小西理事長と会談するティンベトナム政府保健省伝統医学局長(左から2番目)
ナム国立伝統医学病院長(左端) 正林政策アドバイザー(右端)

むすび

近年、欧米先進国をはじめ世界的に伝統医療の利用頻度が急速に増加しています。それは伝統医学が西洋医学と併用・共存することによって相乗効果が表われ、いわばハイブリッド医療として患者の選択性と利益が増大すると考えられるからです。

ベトナムの伝統医学医師はじめ政府保健省関係者の人々が医療現場で一層積極的な役割を果たし、その結果が地域住民に直接利益をもたらし、日本とベトナムのさらなる友好促進につながることを希望致します。

そしてベトナムには自立と発展の道を歩み、私たち日越の伝統医学のベトナム国民医療制度への統合を実現してほしいものと念願致します。

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